2026/04/23 15:16
後編は、片平さんご自身の制作・研鑽の裏付け、新作「In BLUE00」や代表作「静かの海」に込めた想いを、対談形式でお届けする後編です。
目次
1.根源的なストーリー:「インナースペース」と「皮膚」のコンセプト
2.独自技法の探求:特許油絵、版画、インスタレーションの制作論
..................................................................................................................前編
3.制作哲学と活動の方向性
4.経済活動と制作時間の確保
5.「見立て」の美意識と鑑賞者との関係

3. 制作哲学と活動の方向性
川田: 『残酷さ』というような表現をしてしまったのですが、実は私のスクラッチ技法も、当初は無自覚に始めたことでしたが、やがて、「キャンバスを切り裂くようだ」と心配されたり、鬱気味な漫画の主人公のモデルに使われたりとして行くうちに、次第に自分でも何でこのような「残酷な」ことをしているのだろう?と感じるようになりました。
片平さんのお話を聞いていても、どこか幼少期に共通の記憶があるように思えて来て、共振し始める私があります。子供の時は、両親や大人たちが普通に行なっていることも、不安に感じたり、恐ろしさを感じたり、敏感に傷ついていたりしますよね。そのほとんどが、大人になると忘れてしまうのかもしれませんが、アートの道に進む人たちの多くは、子供の頃から敏感だったり繊細な人が多いから、そういうものが必ず作品の中に刷り込まれているように感じて来ました。
そして、「残酷さ」というような感じも、少し表現のニュアンスが変わると「冷徹さ」であったり、「客観性」だったりします。たとえば、医者の世界は、人間の身体にメスを入れざるを得ない「残酷さ」は当然のこととして行われます。それを残酷だとは、もはや誰も言わない行為です。誰もが信頼できるような「強靭な心」や「冷静な目」「問題を掘り下げる鋭さ」そういう能力が試されます。
そういう意味で、医学と現代アート、特にコンセプチャルな表現は、私から見ると、かなり近いところにあるように思うけれど、まだそのことに気づいている人は少ないように思います。
現代アートは、どこかで冷徹さを身にまとわざるを得なかった。それまでのアートの「情緒性」「ロマンス」「感情の露出」「エロス表現」「はちゃめちゃなデタラメ」というような近代アートを愚弄し、やっつけて来たようなカウンターを、今度は現代アートは冷笑してたしなめ、やや冷酷に表現する作戦に変えて来ているように感じます。片平さんの作風にも、その流れは強く感じます。
そういうアートの世界の中で、ご自分の立ち位置や、居心地の良い自分の居場所を見つけた、という実感はありますか?
また、今後どのような方向性で、ご自身の制作、発表活動を展開して行きたいと考えていらっしゃいますか?
片平: 「残酷さ」や「硬さ」という表現をいただき、むしろ嬉しく感じています。
うまく言葉にはできないのですが、自分の作品を通して自分自身を見たとき、私自身もどこか似た印象を受けることがあります。
活動を始めたばかりの頃、「あなたの作品には毒がある」と言われたことも思い出しました。
私はこれまで、自分自身に対しても少し距離を取ることでバランスを保ってきたところがあるので、そうした視線の癖が作品にも出ているのかもしれません。
また、川田さんの幼少期のお話をYouTubeで拝見した際、恐れ多いのですが、どこか近い感覚を覚えました。
自分の中に残っている幼少期の記憶と重なり、感情が揺さぶられました。
そこから過去の動画も拝見するようになり、今回の募集も、そうした関心の延長で応募させていただいた経緯があります。
私の作品は性質的にネット販売にはあまり適さないので、審査が通過して大変驚きました。
制作についてですが、私は作品の中に情緒を持ち込まないように意識しています。
それは感情を排除するというよりも、ある距離を保った状態で扱う、という感覚に近いものです。
医学とアートの近さというお話もとても興味深く拝見しました。
実は私の人間の顔の作品は、人体の発生過程を記録した映像などを参照しています。
人間の身体もまた、自然や起きている現象の延長にあるもののように感じていて、その連続性の中で形が立ち上がってくる過程にも関心があります。
作るのに必死で、居心地について考えたことはないのですが、
このままの自分の在り方を受け入れた上で作品を見てくださる方や、実際に手に取ってくださる方が少しずつ増えてきたことで、無理にどこかへ適合しようとするのではなく、このまま制作に没頭してよいのだという感覚はなんとなくあります。
今後についてですが、私は「引用される作家」になりたいと考えています。
誰かが作品や概念を語るときに、その文脈の中で自然に参照されるような存在です。
そのため、美術作家として美術館展示を目指したいです。
また自分の中だけで完結する表現ではなく、外部に対して開かれたかたちで残るものをつくっていきたいです。
川田: WEBサイトもしっかり持っていらして、作品を紹介するだけでなく、CV(プロフィール)も充実しています。
大学卒業後、コンスタンスに公募展、グループ展、個展というキャリアを積み重ねていらっしゃいますね。ただ、個展の欄を見ると、やや少なめの感じがします。ギャラリイKさんでの発表が基軸になっているようですが、発表の場として手応えを感じていらっしゃいますか?
片平: 作品の傾向的にも個展の方が向いているのですが、個展よりグループ展の方がいろいろな人が来て面白いというのがあります。
個展も、そろそろやらなきゃねと周りから後押しをされて、やっとやったという裏話があります。
あと、作品をコツコツと作る方が楽しくて、展示の比重が弱いところがあります。
自分にとって展示は、アーカイブというか、誰がいつ何をしたのかという記録を残すためにするという認識が強く、個展のように自分が主になって打ち合わせを重ねて展示準備をすることや、売り上げを出さなければならないことに、少し苦痛を感じるところがあります。
また、作品で研究していることから余白を大きく取るために、ある程度の大きさの作品が多くなり、どうしても売りにくいサイズになってしまうことがあります。
個展になると小作品を一定数用意しないといけないことも苦手で、サイズなど細かく指定される場合もあるので、そのあたりも少しハードルに感じています。
ギャラリイKさんについては、ギャラリストの宇留野さんとスタッフの川村さんをとても信用しているので、よく展示をしています。
活動開始の時から展示の機会を与えてくれただけでなく、のびのびとプレッシャーなく発表できる環境を作ってくださっているので、自分にとって大切な場所になっています。
4. 経済活動と制作時間の確保
川田: 活動の経済的基盤は、十分確保できていますか?また、どのように成り立たせていますか?モデルさんを使ったり、漆などの高額な素材をお使いです。苦労している点や、工夫していること、制作時間の確保について努力している方法など教えて下さい。
片平: 同世代の中では、経済的な基盤はある方だと思います。
というのも、自分のやりたいことは研究費がかかることや、助成金を申請するような器用さを自分があまり持っていないことは学生時代から分かっていたので、当時からイラストの仕事を請け負っていて、卒業と同時にフリーランスのイラストレーターになりました。
現在は、大手飲食業のLPデザインを担当しながら、イラストやデザインの仕事をしています。
他にも、大手IPのゲームイラストや商品イラストなども担当しています。
制作時間については、仕事は締切がなければ1日8時間ほどなので、平日は4~5時間前後を制作にあてています。
金曜日は自分で休業日にしているので、金土日は基本的にすべて制作に使っています。
苦労している点としては、フリーランスである以上、仕事がなくなってしまうことへの不安が常にあるため、なかなか仕事を断ることができず、結果的に日々オーバーワークになりがちなことです。
実際に体調を崩すことも最近は増えてきていて、その点は今後調整していかなければいけないと感じています。
経済活動へのプレッシャーはかなり強かったと思います。
お金にならないことへの理解がない家なので、フリーになったはいいものの、当初は精神的にもキツかったです。
大きい仕事がもらえるようになってきて、やっと今…という感じです。
川田: 実情を詳しく話してくださって、他の作家さんたちにもとても参考になるお話として共有できそうです。また、本日の内容は特に、You Tubeでもきっと視聴者さんが、興味深く聞いてくれる部分だと思います。
実は、このようなチャットのやり取りの方が、綿密に取材ができているように思うので、こちらのチャット内容をテキスト化して、作品販売サイトの左サイドメニューに「作家紹介/Artists」という項目を設けて、作家さんたちの一人一人の活動、制作などを、一人一人別々の個室のサムネが並ぶようにして、設置することができればと思っています。
そして、YouTube動画では、もう少し気楽な片平さんの人間的な魅力を全面に出して、「詳細は是非販売サイトの記事でお読み下さい。」と伝えて、リンクを動画下の概要欄に貼っておければと思っています。どうでしょうか?ご許可いただけますか?
片平: ぜひよろしくお願いいたします!
実は私は高校生の時に、作家インタビューのようなことを趣味でやっていて、その際に経済活動をどのように成り立たせているのかといった話を聞けたことが、当時かなり大きな影響になっていました。
なので、もし自分の背景が誰かの参考になるのであれば、ぜひ共有していただけたら嬉しいです。
あと、本来の私はもう少し砕けた性格なので、テキストとのギャップに驚かれないか少し心配しています。
川田: ZOOMでお会いするのが、とても楽しみです。動画収録時は、もっとラフにしたいと思います。ただ、今回の文章のやり取りの内容は、とても重要なものになると思っています。真剣に取り組んでくれて、本当に私自身勉強になりました。ありがとうございます。
まだ、もう少し、今回特許を取られた漆とシルクスクリーン技術の掛け合わせの話などを、明日、詳しく聞いておきたいと思います。長々と取材しますが、引き続きよろしくお願い致します。
片平: 一点だけ補足なのですが、特許を取得したのは油絵の技法になります。
見た目としては漆のような光沢を持つ油絵、というものになります。
私は主に、光沢のある油絵、漆の版画、インスタレーションの3本で制作しているため、少し分かりづらくなってしまい申し訳ありません。
ECサイトに登録している6点のうち、5点が版画で、1点のみが特許の技法を用いた作品となっています。
5. 「見立て」の美意識と鑑賞者との関係
川田: 私としては、今回ご自身のWEBサイトのフロントに掲載されている、金魚が二匹描かれている絵画作品にも心奪われました。それで、当作品販売サイトでは、「抽象」とある程度限定していて、悩ましくも感じたのです。しかし、物質が現象として描き出す斑紋も魅力的ではあります。
東洋には、「見立て」という、自然の美を楽しむ世界がありますが、ご存知でしょうか?道端の石の模様や流木の形に、仏を見るだけでなく、仏を彫り起こしていくような創作です。もしかして、金魚もそのようにして描かれたのかな?と想像してみたのですが、どうでしょうか?
そして、今回販売されている作品にも、見る人によって、さまざまな形が立ち現れてくるでしょうか?
片平:今とても驚きました。おっしゃる通り、見立てから発想しています。
本作は「静かの海」といい、月のクレーターの名称に由来しています。月を眺める中で、そこにさまざまな像を見出していく行為を起点に、イメージを構成しています。
まさにご指摘いただいた「見立て」を意識して制作していたのですが、そこに触れていただけたのが初めてで、とても嬉しく感じました。
また、今回の販売作品についても、特定の形を固定するのではなく、鑑賞者それぞれの中で像が生成されていくような構造を意識しています。
見る人によって異なる形が立ち現れるという点も、重要な要素だと考えています。
川田: 実は、金魚の作品も出品したかったのですが、当初は「抽象」という条件があったため見送った経緯があります。(現在、コンセプチャルアーティストで、コンセプトを紹介するために必要と思われる具象作品も販売対象作品としています。)
片平: モチーフはベタという種類で、個体差や動きがとても面白く、今も引き続き探っているモチーフの一つです。
川田: この作品をそのまま丸窓に全部出してしまうのではなく、もやもやしているところだけが見えるようにして、中に入ると金魚が見えてくるという方法で差し支えなければ販売したと考えていますが、それで承諾はいただけますか?本当に美しい作品です。
お答えいただいたように、何が立ち現れてくるかは偶然のなせる技だから、出たとこ勝負でモチーフが決まるという感じなのですね。
だんだん、見る人の鏡のようにも思えて来ます。日本には、3種の神器の一つが鏡で、そのもの自体が神であり、それを見る人それぞれが自分の中の神を確かめる場が神社で、その神社の内殿に鏡が設置されているところもあります。
描き方によっては、ふっと現れては消えていくような描写力が今後展開されていくのではないかと思うと、その流動的な画面の変化が楽しみになって来ました。
片平:ありがとうございます。
また、日本の鏡の歴史もとても好きで、特に銅鏡には興味があります。私の住んでいる地域では出土例も多く、公民館に展示されているものを見てきました。
また、日本の鏡の歴史もとても好きで、特に銅鏡には興味があります。私の住んでいる地域では出土例も多く、公民館に展示されているものを見てきました。
この度は、ここまで丁寧に事前のご質問を重ねていただき、本当にありがとうございます。
作品に対してこれほど真摯に向き合っていただけたことを、とても嬉しく感じています。
川田: 長々とお付き合い、ありがとうございました。
