2026/08/05 20:47

連載インタビューの後編では、繁田直美さんのこれまでの発表活動の場、作品制作の深いプロセス、そして身近にアートを楽しんでもらうための取り組みについてお聞きしました。

さらに記事の後半では、2026年5月21日〜6月9日に名古屋の「アフレックス名古屋」にて、額縁店「noie.cc」のキュレーションのもと開催された個展のご報告をお届けします。

取材者(川田)が直前に体調を崩すなどのハプニングもあり、最後は繁田さんからの個展レポートという形での締めくくりとなりましたが、そこには作品を通じて人々の心に寄り添う、現代を生きる作家の尊い瞬間が記録されています。ぜひ最後までお楽しみください。

【目次】

  1. 作家としての活動の場:ART TRACEとギャラリーとの繋がり

  2. ドローイング制作のプロセス:画面との対話と完成の見極め

  3. 制作のモチベーションと、作品が人に寄り添う瞬間

  4. 手の届くアート:「piece」シリーズと日常への展開

  5. 【個展報告】名古屋・アフレックス名古屋での展示を振り返って

  6. 心に残るお客様との出会い・おわりに


1. 作家としての活動の場:ART TRACEとギャラリーとの繋がり

川田: 繁田さんは長年、両国の「ART TRACE」という作家たちで運営するギャラリーで発表されてきましたが、出会いや運営方針について教えていただけますか?また、その後の櫻木画廊やnoie.ccなどのギャラリーとの出会いについても教えてください。

繁田: 【ART TRACEとの出会い】 アートトレイスは知人の作家さんがメンバーで、参加してみないかとお誘いを受けたのがはじまりです。2年単位でメンバーとなり、1ヶ月間スペースを自由に使う事ができます。個展やグループ展を企画したり、ワークショップ、イベントなど様々な活用方法が可能で、元印刷所の広いスペースも魅力のひとつです。各メンバーは会計、ギャラリーメンテナンス、SNSなどギャラリー運営の仕事をそれぞれ担当します。様々なタイプのアーティストとの出会いもあり、私も以前メンバーだった人達との交流が現在も続いています。

【他のギャラリーとの繋がり】 アートトレイスでの展示がきっかけで他のギャラリーから声が掛かるようになり、企画で展示できるようになりました。櫻木画廊は以前海外の作家との交流展に参加した事がきっかけで個展のお話をいただきました。ノイエ(noie.cc)もやはり国際交流展に参加していた作家さんからのご紹介でした。

ひとつの展示から次の展示につながる出会いがあり、継続して作品を展示する事ができありがたいです。私自身も知り合いの作家さんが個展に来てくれた時などギャラリーオーナーに紹介するようにしています。

2. ドローイング制作のプロセス:画面との対話と完成の見極め

川田: 繁田さんにとっての「完成」、手が止まる瞬間とはどういうシチュエーションでしょうか?即興的に描いていらっしゃるのか、下絵などがあるのでしょうか?

繁田: 「どうやって完成する時を決めるのか?」という質問はよく訊かれます。私は制作する時間の中で、実際に手を動かす時間以上に画面を見る事に時間を費やします。近づいたり離れたり、椅子に座ってずっと見てるだけの時も。そうしているとだんだんと画面に何が足りないのかとか、描き過ぎてしまっているところが見えてきてまた手を動かす、この繰り返しをしていきます。

するとある時点で「この絵はもうこれ以上手を加える必要がない」ことがわかります。私にとって画面を見る事は描く事と同様にとても大事な制作プロセスです。

基本的に下絵などはなく、身体の動きに任せて即興的に描いています。だいたいまず準備運動のようにポストカードサイズの紙に何枚かドローイングをして、自分の今日の状態をみてから制作に入ります。

3. 制作のモチベーションと、作品が人に寄り添う瞬間

川田: 長年制作・発表活動を続けて来られた中で、制作へのモチベーションを維持するコツや心がけていることは何でしょうか?

繁田: 私の場合、やはり作品を人に観てもらうことでしょうか。 去年の個展での事です。ふらりとギャラリーに入って来られた女性の方がひとつの作品の前で立ち止まり、しばらく眺められた後、少しお話しをしました。

「私は子育て真っ最中の母親でアートに詳しいわけでもないのですが、このギャラリーの前を自転車で毎日走っていてずっと気になり、今日子供を夫に預けて観にきました。この作品が特に好きです。日常の忙しさから自分を引き離してくれて、まるでそっと抱きしめてくれるような気がしました。観に来られてよかった…」と少し涙目で話してくださいました。

絵を描いていてよかったと心から思った瞬間でした。こういった経験の積み重ねが私のモチベーションに繋がっていると思います。

日頃から心がけていることは特にないのですが、日常生活を大事にして無理をしない事でしょうか。健康面でも経済面でも無理をするとどこかでしわ寄せがきてしまいますから。

4. 手の届くアート:「piece」シリーズと日常への展開

川田: 今回e-ART-h kikakuで販売している「piece #5」や「piece #20」などは、サイズ感や額装方法がよく考えられており、大変リーズナブルです。こうした制作のあり方についてはどのように考えていらっしゃいますか?

繁田: 昨年アートトレイス20周年のグループ展があり、企画として気軽にアートを購入してもらうために各作家のスケッチや小さなドローイングなど¥3,000ぐらいで販売したところ、とても好評でした。その事もあって今回、アート作品を今まで購入した事のない人たちにぜひ気軽に購入して欲しく、手の届く価格にしました。

アートを購入することはまだ敷居が高いイメージを持つ人が多いのではないかと思います。でも一度そのハードルを超えれば、アートを購入する楽しさをより身近に感じてもらえるのでは、と考えています。

(※作品の設置イメージ画像について:自宅のリビングで撮影された写真は、生活空間に飾るイメージが自然に伝わる素晴らしいセッティングでした)

5. 【個展報告】名古屋・アフレックス名古屋での展示を振り返って

(編集部注:繁田さんは2026年5月21日〜6月9日、名古屋の家具店「アフレックス名古屋」にて、額縁店「noie.cc」のキュレーションによる個展を開催されました。以下は個展終了後のご報告です)

川田:繁田さん、ミニ作品集、美しい印刷ですね。紙もマットで良質です。表紙の黄色い作品は、新しい展開を感じます。透明感のある黄色が印刷でも良く出ていますね。


(詳細:Instagram  https://www.instagram.com/p/DYRkrlmkU85/?img_index=1)

繁田:黄色難しい色ですよね。今回の展示を企画してくれたnoieさんは元々ニュートンという額装屋さんなのですが、この黄色の作品を気に入って下さり名古屋の展示用に無償で額装してくださいました。大きな作品なのでありがたいです。

川田: 繁田さん、名古屋での個展について詳しくお話を伺えますか?展示会場の雰囲気やセッティングはいかがでしたか?

繁田: 展示会場はとても広く、大きなガラス窓から自然光も入り気持ちの良い空間でした。外の街路樹と店内にも沢山の観葉植物があり、室内にいながらも緑を感じられます。

詳細Instagram:https://www.instagram.com/p/DYoHACPxA2C/

通常のギャラリーとは異なりインテリアと組み合わせた展示は、実際に自宅や公共スペースに飾られたイメージを想定し易く、また照明も通常の展示とは大きく異なるので、同じ作品でも印象が変わり新鮮でした。

壁やインテリアの色とのコーディネートも工夫しながら配置したのも勉強になりました。普段のギャラリーでは白い壁が多いので、アクセントウォールとの組み合わせは少し不安だったのですが、想像していた以上に相性が良かったので安心しました。

6. 心に残るお客様との出会い・おわりに

川田: 会期中のお客様との交流で、印象に残った出会いやエピソードはありましたか?

繁田: 会場には初日と最初の日曜日、最後の日曜日の午前中に在廊しました。

初日に岐阜からいらしたご夫婦は、DMの作品が気になって実物を観に来られたそうで、色々とお話をしました。作品タイトルについて質問されたのでお答えすると、とても驚いていました。

『地中に睡る碧色の虹』というタイトルは、今年の春に急死した愛猫の事を思って付けたのですが、そのご夫婦はお子様を亡くされていて、「なぜか絵を見た時にその子の事を考えた」とおっしゃったのです。

私も普段はタイトルについて詳しく説明はしないのですが、ご夫婦のお話を聴いて何か特別なご縁を感じました。私にとっても思い入れのある作品なので、このご夫婦の元に渡る事が決まってとても嬉しかったです。

(※また、会期中にはe-ART-h kikakuのメンバーも会場を訪れ、直接作品と触れ合う温かい交流が生まれました)

川田: 素敵なエピソードを教えてくださり、本当にありがとうございます。個展発表は素晴らしい体験であり、色々な人へ勇気や励ましを伝えるものですね。繁田さんの言葉の端々から、長年積み重ねて来られた制作への静かで熱い想いが伝わってまいります。今後も繁田さんの取材を続けていく予定です。ご期待ください!

記事作成を終えて(編集者より)

チャットを通じた数ヶ月間のやり取りの中で、繁田直美さんの表現者としての誠実な歩みと、作品が人の心にそっと寄り添う瞬間の尊さに触れることができました。e-ART-h kikakuでは、今後も繁田直美さんの作品と活動を追っていきます。 繁田 直美 https://www.naomishigeta.com/
■ プロフィール
https://www.naomishigeta.com/profile.php
■ Instagram
https://www.instagram.com/naomishigeta/

e-ART-h kikaku 繁田 直美 作品 https://artists.earthkikaku.com/naomi-shigeta-works/